Manic Street Preachersに見る不幸とその克服

Everything Must Go

Everything Must Go

はてなを休んでいた2週間で1番聴いたアルバムがこれです。というかぼくが少しでも落ちこんだりした時に真っ先にCDラックから抜き出すのはいつでもマニックスなのです。つい最近発表した新作を含めてマニックスは7枚のオリジナルアルバムを出しているのだけどぼくは特にこのアルバムが好きでそしてお世話になることが多い。なぜ落ちこんだ時はマニックスなのかといえば、まぁそれはマニックスを知っている人ならすぐに分かってもらえると思うのですが、マニックスほど不幸なバンドはいないと思うからです。
マニックスウェールズで結成され92年にアルバム「GENERATION TERRORISTS」でデビューしました。このデビュー時マニックスは「デビューアルバムでNo.1を獲って、そして解散する」と宣言してしまったわけです。そして実際にはNo.1を獲る事はできなかった。内容は素晴らしいんですけどね。ただこの件でマニックスは色物として見られるようになってしまうのです。ここでマニックスには2つの選択肢があったと思うわけです。一つはあれだけ大々的に宣言してしまった以上1位は獲れなかったけれど解散する。もう一方はバンドを続ける。マニックスは後者を選びます。
自分達の最高のアルバムを受け入れてもらえなかった絶望と、解散しなかったことへの中傷。そこでマニックスはより丁寧に2ndアルバム「GOLD AGAINST THE SOUL」を作り上げるのです。この2ndアルバム世間の評価は低いけどぼくは大好きです。切なくて美しい曲を傷つきながらも力強く鳴らしているのです。そしてそれに続く3rdアルバム「THE HOLY BIBLE」はこの路線の完成形と言ってもいい内容でした。激しさと切なさが同居している楽曲はどれも素晴らしく掻き鳴らされるギターと高音のヴォーカルの美しさったら。
しかしここでまたも不幸がマニックスを襲います。ギタリストのリッチー・エドワーズが突如失踪してしまうのです。1995年2月1日のことでした。ロンドンのホテルの一室。残されたメモには一言「I LOVE YOU」。その後現在までリッチーの行方は依然として不明のまま。インドで見かけたという噂は何度か聞いた事があるけれど一向に見つかっていません。
メンバーと言うよりも幼馴染の友達の突然の失踪。ある意味自殺してしまうよりも辛い状況なんじゃないかと思う。帰ってくるのか帰ってこないのか分からずただ待つという状況。一言の相談もないままに突然消えてしまった友達を残された3人はどんな気持ちで帰りを待ちつづけたんだろう。
その半年後に製作が開始されたのが「EVERYTHING MUST GO」なわけです。「全ては過ぎ去っていくしかないんだ」と名づけられたこのアルバム。とても前向きでとても明るい印象を受ける楽曲。ストリングスを大々的にとりいれて大袈裟なまでに盛り上げるアレンジ。ただそこには感傷的なものをなんとか隠そう隠そうとするメンバーの姿が仄見えたりもするのです。そう言った悲しみや動揺や不安にふと気づいた時どうしようもなく涙を誘うのです。悲しみや不安を持ちつつも前へ前へと前進する3人の姿に感動するのです。そしてこのアルバムでマニックスは初めてチャートの1位を獲得します。
5枚目のアルバム「THIS IS MY TRUTH TELL ME YOURS」は前作の路線をよりスケールアップさせたようなアルバムになりました。メランコリックで澄みきった楽曲。ストリングスアレンジは前作と比べるとずっと大仰さが減ってこなれてきて、曲の美しさをさえぎる事がなくなっています。ただぼくは曲にメリハリがなくて名曲揃いなのだけどアルバム後半だれる構成でアルバム全体での印象が薄いためこのアルバムはあまり好きではないのですが。
6枚目のアルバム「KNOW YOUR ENEMY」でマニックスは1stアルバムへと回帰します。知性と反抗、激しさと美しさをなんとか表現したいという衝動をまっすぐに鳴らすという結成当初の理想を紆余曲折を乗り越えてようやく表現できるようになったと思うのです。
でまぁ勢いに任せて長々書きすぎてしまいましたが、マニックスはまぁこんな歴史を歩んできたバンドなわけです(一部に推測が入っているますが)。
そんな中でぼくが1番好きなアルバムが「EVERYTHING MUST GO」でその次が「GOLD AGAINST THE SOUL」なわけです。共に不幸のどん底にいる中で鳴らした希望と、そでれもどうしても隠しきれない不安のアルバムだと思うのです。絶望の中で不安もあるだろうけどそれでも進んでいかなければいけなかったマニックス。落ちこんだ時にはマニックスを聴くことで、あぁ世の中にはぼくなんかよりもよっぽど不幸な人達が頑張っているんだなとぼちぼち気を奮い立たせる事ができて吉だって話。以上。終り。
あぁ、早いとこ新作買ってこなきゃ。