ナンバーガールとぼく物語

前に書いたものに加筆修正して再掲。

ぼくがナンバーガールと初めて遭遇した日を思い返してみた。今でもはっきり覚えている。忘れることは出来ない。それは1999年11月6日のこと。ナンバーガールbloodthirsty butchersが一緒に回っていたHarakiri Kocorono Tourを音源を聞いた事がないまま名古屋クラブクアトロに観に行ったのだ。噂に聞くNumber Girlがついでに観れるしブッチャーズを久しぶりに観に行ってみるかくらいの気持ちだった。
先発は当然ナンバーガールだろうと思っていたところブッチャーズが先に出てきた。ぼくの高校生活はフィッシュマンズとブッチャーズがいなければ成り立たなかったと言っても過言ではないくらいにブッチャーズには思い入れがあった。ブッチャーズのライブから足は遠のいていたけれど2年ぶりに聴くブッチャーズの演奏は相変わらず素晴らしくて「2月」「7月」では泣きそうにもなった。
でもそんなセンチメンタルな思いもすぐに吹っ飛ばされた。
登場SEはTelevisionの「Marquee Moon」。何かが始まる予感。見た目は普通の4人なのに何故だかステージ上での佇まいがかっこいいのにまず驚いた。そして、ヴォーカル&ギターの冴えない眼鏡君が鋭角に切りつけてくるようにギターリフを刻んだ瞬間、空気が張り詰める。ほとんど聞き取れないけれど断片的に耳に入ってくる歌詞だけでなんだか風景が浮かんでくるようだ。女の子が弾いているとはとても思えないギターの鋭利な刃物の様なリフ、淡々と冷めたフレージング。コード感を残したまま全力疾走するようなベース。なかでも一番とばされたのがドラムだった。なんだこの音のデカさは!なんだこの手数の多さは!なんだその意味のわからないカウントは!まったくもって衝撃だった。恐ろしいものを観てしまったと思った。ここでナンバーガールに夢中になったぼくは西へ東へ追いかけ30本以上のライブを観ることになる。
ライブ終了後汗でベトベトのTシャツのままでクアトロから鶴舞駅まで歩いた。途中友達に電話をかけまくった。この興奮をなんとか伝えたくて伝えたくて。ナンバーガールがすごすぎたと。アレは観とけ。とりあえず観とけと。火照った体に秋の夜風が気持ち良かった。電話を切って空を見上げると夜空に三日月がぽっかり浮かんでいた。

いまでも変わらない笑顔をするんです、きっと


それでもぼくがナンバーガールを好きになった瞬間というと、このライブの時の向井のMCだと思う。
「日常に生きる少女」の曲前の向井の「仕事に行って帰ってきてご飯を食べて寝てまた起きて仕事に行って、時には本を読んだりCDを聴いたりしてまた寝て、そうやって普通に暮らしているのは本当に素晴らしいと思う」という主旨のMCを聞いた時からぼくはナンバーガールを大好きになったのだ。
その昔ユニコーン

素晴らしい日々だ力溢れ全てを捨ててぼくは生きてる
君は僕を忘れるからそうすればもうすぐに君に会いに行ける

と逆説的に嘆いたり
スチャダラパー

ヒマを生きぬく強さを持て

とぼくらを鼓舞したり
フィッシュマンズ

今日が終っても明日が来て長く儚く日々は続くさ
意味なんかないね意味なんかない今にも僕は泣きそうだよ

と一緒に泣こうとしてくれたことと同じことをナンバーガールは肯定してくれたのだと思ったんだ。ぼくはあの瞬間に恋に落ちた。あれからずっとナンバーガールが大好きなんだ。もちろん今も。きっとこれからも。きっとずっと。